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街のシステムが落ちた深夜自転車のペダルは軽く、陽だまりに透ける君の髪に触れると思っていた。
どうして陽だまりの気配に自分だけが気付くことができるのか、どうしてすれ違っても君を見つけられるのか、どうして君の足音だけが他とは違うのか、幼い我々は知らなかった。
眠りの最中でも自分は君の足音で目を覚ますことができる。
美しい朝の陽だまりに足を踏み入れることに自分は怯えていた。陰りの端で立ち止まる。どうしてこういう瞬間に、あれにいまださよならを言えずにいることを思い出すのか。
美しい朝、花の匂い、鳥の羽ばたき、万象はあれに見せたかった世界だったからなのだろうか。
あれをあの街から奪って誰一人知らない街で一緒に暮らせばよかった。そんな詮無きことを全て損なった日から際限なく考える。
君の部屋と胸に流れていた音楽がまた胸の奥を揺さぶっても、自分の空の器に赤い血が熱く流れることはない。
どれほど痛く、寒かったのか、亡友がいまどこにいるかも、自分は知ることはできない。
肉は魚に食われ、骨は海底に眠るのだろうか。
対岸で帰りを待ち続けているのは私の方だったのだろうか。
あれがいなくなってから自分は霞と変わらぬ亡霊のままでいる。








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灯台はない。駅も見えない。緑色の電車もない。男の顔も見えない。海もない。
しかし、ここは江ノ島である。
そのことを自分も男も知っていた。夜明け前、男の車で江の島に向かっている事実がそこに横たわっている。
人の姿は見えない。すれ違う車もない。窓の外は、一面に血を溢したように空が赤い。
赤銅色の空を眺め続けているせいか、自分は、長く続いた壮大な物語が終わったあとのような気分でいた。
それは長く続いた戦争や、数篇からなる分厚い小説や、まれに見る途方もなく長い夢や、世界や、大きな出来事が結実したときの気分だった。
男は車を停め、我々は外へ出た。自分も男も口を閉ざしたままでいる。男も世界の終わりの静けさの中に立っていた。
何も収束することなく、目が覚めた。
あの頃の日々が夢だったのか、まだ夢を見ているのか、自分にはわからない。








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まだ生きてみよう、もう少し生きられる、そう思うことは何度かあっても、この身のすべてに赤い血が流れるように、生きていて良かったと感じたことはかつて一度もない。
みなそう感じながら生きているのか、それもよくわからない。
東京湾の見える埠頭で波打ち際を眺めていたら、衝突し合う波の中に亡友の姿を見た気がした。月の陰った真夜中の空よりも暗く、あの痩せ細った手が浮かんでいたふうに見えた。
どうして今まで生きてきてしまったのだろう、そう思って、背筋が凍った。
生きていて良かったと大声で叫びたくなる瞬間に出会いたい。そのためなら、死んでもいい。








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自分が過ごした時間はビロードのカーテンに流星を集めるような日々だった。
恐らく自分はこうして、どこまで歩いても対岸に辿り着くことのない泥の海の中を彷徨っているような気分で何百年も生きている。砂漠の心臓に泉ができ、心が清潔な水を湛えていた日々はもう何百年も昔のことのように感じる。
後頭部に銀河が生まれる。その渦は緩慢に動き、中心で自分を呼ぶ声がする。上手く歩けもしないから、自分はそれに気付かないふりをしている。
何を食べたって頑丈で薄い粘膜を噛んでいるようで、早く食事が終わってしまうことを願っている。自分の体の皮膚の中すべてがピンク色に溶けてゼリー状となった感覚がする。
声や顔の造作や姿勢、話し方、自分のことごとくを恥と感じる。脳が麻痺しきってから笑う。血液は沸騰しそうで、脊髄が熱い。
自分が銀河を支配しているとき、脳も五臓六腑も核も何もピンク色に溶け出してしまったときに何度だって思い出すことがある。








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潮風で髪がべたついていた。
午前四時、まだ日は上らない。サンダルを履き換え、一年振りに着た水着では朝の海は肌寒く身を縮めてガラムを吸いながら濃霧の海を眺めている。
貝殻を集めて歩く。シーグラスを見つけてまた拾う。貝殻の浜は素足で歩くと痛い。そんなことで心が寛かになる。
打ち上げられた貝殻の群れ、波の音、鮫の死骸、水の冷たさ、潮の味のするキス、潮風、ガラムの煙、その匂い。
霧が濃く曇りの日の海は世界の終わりの果てに似て、霧の向こうで波に乗る彼の姿はどこかに行ってしまいそうでひどく胸騒ぎがした。
一瞬で過ぎ去るであろうこの夏。遠くない未来、いつか振り返るときに鮮やかに思い出せるように願ってこうして記していく。








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昨日、近くで祭りがあった。恋人に手を引かれ、蝉の声を抜け、空の色の変わる中を歩いた。
ただ何事もなく日々を過ごしてきた自分に祭りなど久しい。その鮮烈な灯や子らの声は実に五年振りだっただろうか。
高揚した気分の中でも思い返すのだ。
あの日自分の目の前にあった惑星はいまだ身動ぎもせず、ただひっそりとそこに息づいている。
いつからか眠れぬ、食えぬ。酒ばかりが進む。そして博打を打つ。そんな自分を腹を抱えて笑ってしまえたら少しは楽になるだろう。
鮮やかな灯りに照らされた幼な児の両目がまっすぐに自分を突き刺し離さない。








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二十一歳最後の一ヶ月である。
誰一人からも祝福されずに生まれ、世界中の人間に疎まれて生き、我々は一人でこの東京に来て身を寄せ合った。   
自分には父があった。自分と彼との間に一切血の繋がりはなかったが、その厚き心により自分を拾ってくれた人だった。地獄から連れ出してくれるなら鬼でもなんでもよかった。
自分の人生には、楽しいことが何一つなかった。いつも退屈な気分でいる。
また年を重ねる前にとくに何をしたいというわけでないし、これといって行動もしないのだろう。
ただ無為に日々は過ぎ、酒と博打に明け暮れることだろう。
いいや、本当は、空の体に熱く血が流れるような、楽しいことがしたい。
滑車の回る音や、体が宙に浮く感覚、風の日のにおいを感じたい。自分の好きな音楽に身を揺らしたい。恋人と海へ行き、ずっと話をしながら夜明けまで待って朝焼けを見たい。
ただ酒を飲み、酩酊し、男に抱かれ、睦言で金を稼ぎ、博打を打つ。それだけの人生だった。
博打はよかった。心を無くすことができる。退屈な気分も幾分紛らわせるようだった。
あと、三十日








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