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誰一人いない美しい森の中にぽつんと存在する、二階建ての小さな白いアパートに自分は住んでいる。
誰もいないこの森で、自分は一人きりで常に退屈な気分でいたが、自分の心を蝕むものは何一つなかった。
だから、孤独だとしても、穏やかな気持ちで日々を過ごしていた。
自分はそのアパートの二階の右から二番目の部屋に住んでいた。
ある日、友人は何の連絡もなく後から入ってきて、一階の左から二番目の部屋に住み始めた。
部屋は自分と友人の部屋以外全て空いたままだが、とにかく我々は、美しい森の白いアパートに住むことになった。
相変わらずその姿は生前のままだった。
そこは恐らくはこの日本のどこかの森の奥深くで、あたりには人も家も何もなかった。
だから我々は、学校にも行かず、働くこともせず、
この白い部屋で、彼はギターを弾き、彼は歌い、
自分は彼の作った音楽を聴いたり、彼が歌詞の上に載せた意味を考えたり、
ガラスの箱によく澄んだ水を入れ魚を飼い、魚が快活に泳ぐ姿を眺めたり、
そんな些細で退屈とも言えるしかし確かに幸福な日々を過ごしていた。
互いの部屋の模様替えをしたり、互いの写真を撮り合ったりもした。
誠不思議なもので、けして自分の顔や体の造形の話ではないが、
彼が撮る私の写真は常に美しかった。
自分は幸福だった、幸福と呼ぶには余りあるほど。己が死んでも渇望してやまなかった戻らない幸福が今この手の中にあるのだ。
この森のこのアパートでは、まるで時が止まっているかのようだったし、実際そうと言っても間違いではないだろう。
自分が望む限りの希望と光だけを詰め込んだ戻らない過去の夢。
目が覚めて、君のことを思った。








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脱ぎ散らかしたマーチンのブーツ。
無為に積もる煙草の吸殻。
体温と焦れったい布擦れの音。
天神の街も百道浜もすぐそこにあった。
それなのに、我々はどこへも向かわずに、汚いビジネスホテルの一室でただセックスだけを繰り返した。
自分がいくら己の過去を話しても男は、「そういうこともあらーね」と受け流し飄逸として、
それでも斯様な身を抱きしめてくれる華奢な手首と大きな手を自分は確かに愛していて、長い睫毛もセクシーな声も確かに愛している、
あんなに心から安堵することなどないのに、きっとひとつとして我々は相容れない。
「お前が欲しい」と言ったその唇が直後、「でもおれは人として欠陥しているから、お前を欲することすら許されない」などと言う。
「あんたが私のものになるなら、私はあんたのものになってもいい」と溢したとて、
男は壁にもたれ、いつもの飄々とした様はどこへやら、自分に一度たりとも見せたことのない悩ましい顔で煙草を吸っていたのだった。
バカな話だ。これは呆れたと言っても許されるかもしれない。自分が欲しいものは金で買えるものではないのに。
例えば自分が身体中に刺青を彫っても、バカみたいに酒を飲んでも、男は自分を突き放すことはけしてしないだろう、
きっとまた自分を引き寄せてその熱い胸板に自分の体を押し付けるのだ、それが嫌でたまらない。
そうではない、違うのだ、自分が言いたいのはしようもない子供の癇癪と大差はない、ただ心がここにあることをわかってよ。
過去を思い出しては今日も酒が進んで小気味よい。








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今日もサイレンの音で目が覚める。そして手錠をかけられる夢。
目が覚め、夢だ、と思って心から安堵する。
自分がかつてその粘着質な夢の中に立っていたことを考えると誠に不可思議な気分になる。
そしてそのときもまたこれが夢であったらよいのに、と焼き増しの日々の中で、鬱屈の底で、思っていたものである。
煙草に火を点ける。
ハイライトメンソールを買い、波濤を眺めながら二、三回だけ吸って吸い殻を東京湾に投げ捨てた日を忘れることはないだろう。
東京湾はいつしか日常の一つのように見慣れた景色となり、自分はレインボーブリッジを断罪の橋と呼んでいた。
あの場所に流れる音楽はなかった。
木々を風が撫でた。砕かれ合う波が光っていた。散った山茶花が路上を染めていた。名も知らぬ鳥が空を裂く姿を見たのはいつ振りだっただろう。
それを美しいと思った。
大団円はない。深く理解していた。
それでも、どれだけもう一度会いたいと願ったことか。
涙を流すに相応しい理由は、いくら探しても自分の手の届くところにはなかった。








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2019.03.10

  名取駅のコンビニでマルボロを買う。これは棺桶の釘だ。深く理解していた。
  バスストップでエルレガーデンを聴きながら時間が過ぎるのを待つ。次々と流れるバスストップの名前を覚える気はなかった。
  ようやく海に行こうと思ったのだ、今年は。
  波濤を眺めながらマルボロを一本吸う。思い出したようにあれが一番好きだった曲を再生する。
  やはり、英語の歌詞は何を歌っているのか自分にはさっぱりわからない。
  何を話せばいいのかはわからなかった。
話したいことはたくさんあったはずだった、恐らく。ただそれも取るに足らない話だったはずだ、恐らく。
  音楽を聴きながら砂浜の貝殻を拾う。
  君と集めた流星を拾うように、骨を探すように、貝殻やガラスの破片を拾いながら歩いた。
  がらくたにしか見えなくても、何の意味もなくとも、自分には鮮やかに光るものに見えたから拾い上げるのだ。
  思ったより、深い慟哭はなかった。むしろ、寛かな気分だった。



2019.03.11

  傘を開いたままでいるか閉じるか悩んでいた。この程度の小雨なら、雨に打たれていいとも思っていた。
  刺青を彫った。君のことを考えたりした。
  マルボロを吸う、まるで句読点のように。
  この刺青は願いでもあり、誓いでもあった。同時に呪いでもあり、魔法でもあった。
  いつでもあのときの陽だまりに包まれていられるように。
  はじまりの音楽がまたこの胸に流れていた。
  もう一度君と目が合ったら、あのとき君が自分の手を引いて逃げてくれたときのように、今度こそ君を奪って誰一人知らない街で一緒に暮らしたい。
  こんな日はそういうつまらないことも考える。








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  自分は、誰からも祝福されずにこの世に生まれた。
  両親は見合い結婚で、母は父を憎んでいた。父は母に対してはもしかしたら愛情があったのかもしれないが、自分に一切の関心がなかった。
  母の気持ちを鑑みるに、呪いたいほど嫌いな男の血が半分流れている自分という存在は、殺したいほど疎ましかったであろう。
  血縁との関わりを思い出そうとするたび、怒声と沈黙だけが頭の中に敷き詰められる。
  母は毎日飽きもせず鬼の形相で自分に罵詈雑言を吐いた。金切り声をあげることに疲れたら、換気扇の下まで煙草を吸いに行く。
  姉は母に加担し、己が思い付く限りの言葉で自分を怒鳴り散らした。
  父は己が攻撃する対象として捕らえられたくないので、見て見ぬ振りをして逃げ続け、一度たりとも自分を助けることはなかった。
  それが物心がつくよりも前から、自分が仙台を後にするまで一七年間続いた。
  孤独だった。一言で言えば。人生を呪った。大袈裟に言えば。
  友達は一人もいなかった。
  小学校に入る前から高校を辞めるまで学校ではいじめられ続け、家に帰れば待っているのは怒声だった。助けてくれる人間は一人もいなかった。
  自分の一生はこうして過ぎていくのであろう。頭のどこかでそういう確信めいた諦めが発生していた。しかし、それでいいとも思っていた。
  だが、中学校に入り、ある男に出会うのだった。泥梨の底で。
  幼い自分は、それからの人生において宝石の日々と、その後に砂漠の中を休むことなく歩き続ける日々が訪れることを知らなかった。
  彼は、同じ学年、同じクラスの、美しい少年だった。
  色が白く、学ランを着込んだ線の細い姿は倒錯的だったことをよく覚えている。
  出会いは本当にしようもないきっかけだった。呆れて、対峙とも言えない。
  今はもう失念してしまったが、何かの行事のために学年全員で校庭の草むしりを教員に指示されたのを覚えている。
  そのときに彼は自分の側におり、「草むしり、嫌いなんだよな、おれ」みたいなことを自分に伝えてきたのだった。
  自分は「ふうん」とだけ返し、その日はそれきり話さなかった。
  その日から彼は自分に事あるごとに話しかけてきて、彼とは音楽や漫画の趣味が合うことがわかった。嬉しかった。
  血縁全員に疎まれ、友達なんて一人もできたことがなかった自分が、好きな音楽や、好きな漫画の話ができる人が今はいる。本当に嬉しかった。
  そして彼も家庭に居場所がなく、孤独な人だった。だからこそ同じ匂いを感じ、幼い我々は身を寄せ合ったのだろうか。
  互いの不幸話で笑い合った。そんなことを今でも覚えている。
  けして口数の多い人ではなかった。寡黙な人だった。切れ長の目は、全部を威嚇して生きているふうで、誰も彼も殺してしまいそうな睥睨だった。
  けれども、自分にとっては陽だまりの人だった。彼の側にいると穏やかな秋の日の昼下がり、陽だまりで居眠りをするように心から寛かな気分になることができた。
  いつしか彼は自分にとって初めてできた友人で、最愛の人となった。
  初めてできた友達。
  初めて自分の名前を呼んでくれた人。
  初めて自分に興味を持ってくれた人。
  初めて自分を見てくれた人。
  思い返せば、これまでの人生において苦しいことしかなかった。だから、これからはもう、一生笑って暮らせると思った。
  彼が笑うときだけ世界は自分のものだった。なんとも稚拙な万能感だが、なんでもできると思った。
痩せ細った手を握ったら、胸の奥が痛かった。今になって考えれば、それは幸福と呼んでも許されるだろう。
  人生の中で最も幸福な時間だった。
  しかし、十七歳の夏、自分は学校を辞め、東京で暮らすために仙台を後にすることを決めた。
花火大会の夜、自分は友人にそのことを告げた。彼は何も言わなかった。
  ただ東京に行くその当日、新幹線のホームまで彼は自分に付き添い、動き出した新幹線をほんの数歩だけ追いかけて、彼は泣いていた。
  奇しくもその年のことだった。八年前の三月十一日。
  何度も何度も電話をかけても繋がることはなかった。
  友人は今も遺体すら見つからない。瓦礫に埋もれボロ切れのようになっているのだろうか。深海に眠るだろうか。
  今でも友人のことを夢に見る。
  十一月に見た夢。
  夢の中の自分は時間遡行の力を有していて、何度も友人を助けようとする。その度に失敗し、何度やっても全て失敗して、何度も友人を殺し続け、それでも何度も何度も友人を救うために繰り返した。
  次で最後だと知っていたが、結局また救うことができず、残ったのは腐り落ちたあの人の亡骸とそれを目の前に何もできなかった自分の姿だった。
  生っ白い肌、美しい横顔、痩せ細った手、舌にあけたピアス、凍りそうな睫毛。
  白いギター、NSR、ELLE GARDENのアルバム、コンバースのスニーカー、マルボロ。
  愛していた。心から。
  宝石の日々が続けば、死んでもいいと思っていた。耐えがたきに耐えるだけが人生か。
  流星の町。あの星の一つが真っ直ぐに我々を突き刺そうとしていた。








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男が走らせる車に乗っている。
窓を開け、ガラムを吸う。やはり海と言えばガラムなのだ、自分の中では。
車内に流れる音楽はスーパーカー。窓から見える景色は曇り空の海。
緑色の電車が通り過ぎたり、サーファーが自転車にボードをくくりつけ通り過ぎるのを見つけたりすると、ああ、江ノ島に来たのだ、と感じる。
あと少しで海が見えるはずだ、こんな年になっても、そんなことで胸が高揚感で一杯になる。
そして、いつもこうやって自分をワクワクさせてくれる男のことを自分は愛していた。
フロントガラスは濁っていく。
深く息を吸い込む。
咳き込んだり、咳き込まなかったりする。それは我々にとっての日常だった。
思えば、このとき時間は既に薄紫色の夢のような感覚がしていた。まるでそれが最後の夏だと知っていたかのように。
キャンプ場を抜け、砂浜に出る。
草むらに座り込み、二人で煙草を吸う。
波の音、海の匂い、煙草、静謐、男。それ以外何もない。
男はiPhoneでSMAPのライオンハートを再生し始めた。口ずさむわけでもなく。それがなぜだか、恥を感じるほどちゃちなものに思えて仕方なかった。
けれども、自分は男を愛している、そのことで心の在り処がわかる、そんな気がした。








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我々は流星の町で出会った。
十何年も前、幼い自分と友人が出会ったこの町が日本で一番星が綺麗に見えると呼ばれていたのが所以だ。
星と街の灯以外何もない。どこにでもある凡庸な田舎の景色だ。
この町、あの部屋、我々の胸に流れる音楽は、英語の歌詞ばかりで正直に言うと彼らが何を歌っているのか学がない自分にはさっぱり分からなかった。
恐らく友人はその意味を理解していたが、ついに一度たりとも自分に教えることなくある日唐突に自分の前から姿を消した。
唯一覚えているのは、yeah my life is shit、人生はクソだということ。








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